神又谷は穏やかな沢が続いている。釣り人がかなり入っているようだ。
出合付近では林道は消失していたが上部では立派な林道跡が残る。
2段の堰堤が現れて一瞬立ちすくむ。右側の山腹をトラバースしていった。
堰堤より上は穏やかな渓相で癒される。
立っていた左右の山腹も穏やかになり樹林が周りを取り巻く。
猫ケ洞への直登沢は見上げると岩壁が立ちはだかっているように見える。
滝を一つ登って振り返ったところにニッコウキスゲの群落。輝いてきれいだった。
ゴルジュには滝がいくつかかかっている。何れも登り頃だ。
ゴルジュを越えると再び癒しの森。
奥美濃らしい佇まいの三角点。たびたび訪れる人もいるようだ。
下山に辿った沢も素敵な樹林に包まれている。
揖斐川、坂内の神又谷から猫ケ洞に行ってきた。
猫ケ洞には雪のある頃に行こうと思ったまま行っていない。
それならば沢で行こうということで今回のルートを選んだ。
このルートは「奥美濃のヤブ山」に紹介されている。
林道を利用すればかなり楽できそうだ。
夜叉ケ池に続く池ノ又林道を進むとオフロードのレースがあるらしく人と車とバイクで賑わっていた。
そこを抜けて更に進み神又谷出合の林道入り口に車を停める。
既に一台停まっているが恐らく釣り人のものだろう。
出合から神又谷へ入る林道はすぐに新しい堰堤で切れていた。
堰堤を右手の踏み跡を辿って巻いて川原に下りる。
期待した林道の陰はどこにも見えない。
長い年月の間に流れてしまったのだろうか。
浅瀬が続く流れの中を歩いていると釣り人がもう下ってきた。
話を聞くと全然だめだと言って肩を落としていた。
もう6月だから釣られてしまったか魚がすれてしまったか。
林道は姿形もないなあと思っていたら途中からしっかりした林道跡が現れた。
そこには登山道と見まがうばかりのりっぱな踏み跡がついている。
釣り人達の痕跡だろう。
ありがたく利用させてもらい時間短縮。
神又谷の本流と分かれて土蔵岳に向かう谷に入る。
ここも林道跡がまだ残っていて踏み跡が続いている。
やがて眼前に巨大な2段の堰堤が現れる。
一瞬どうやったら越せるのかわからなく立ちすくむ。
いろいろルートを探って右手側の山腹から巻く事にした。
この巻きがなかなか大変でここが本日の核心部と言ってもいいくらいだった。
急斜面(というより崖)を木をつかみながらよじ登っていく。
振り返ればよくこんなところを登ったものだというくらいの斜面。
ここを下りろといわれても下りられないだろうな。
その後のトラバースもヒヤヒヤものでさらに沢への復帰も半分転がり落ちるような感じだった。
やれやれ。
緊張した身体をほぐすため沢に復帰したところで休憩。
ダム湖では時折魚がはねて水しぶきをあげていた。
堰堤より上部は高巻きの苦労に十分報いてくれるだけの沢が続いていた。
流れは細く滝があってもせいぜい2m前後のものばかりだが沢の表情がいい。
あまり沢に女性的などと思った事がないがこの沢は女性的という表現が似合いそうだ。
優しく包み込んで癒してくれる。
とても単独の沢登りとは思えないリラックスした気分になれた。
やがて立っていた両岸は穏やかになり樹林が迫ってくる。
まるで樹林帯の中の小川を歩いているような雰囲気だ。
そんな樹林は前半は栃ノ木が目立つが徐々にブナの占有率が高くなってくる。
そんな風景をみながら思わず「いいところだ」とつぶやいていた。
沢を更に進み一つ目の二俣は左に進む。
二つ目の二俣は左に進んでいくと土蔵岳に直登できるようだ。
「奥美濃のヤブ山」ではこの左俣が紹介されていた。
しかしここは猫ケ洞に直で行きたいので右俣へ進んでいく。
緩やかな沢を少し行くとすぐにまた二俣が現れる。
左手は引き続き穏やかそうな沢が続く。
しかしその沢は土蔵と猫ケ洞の鞍部に出る。
それを避けて右の沢へと進む。
右の沢は細くかなりの急斜面となる。
この沢が猫ケ洞への直登沢だ。
しかし地形図を見ると途中に崩壊地の印があり更に等高線が深く切り込まれた谷を表してる。
無事に進んでいく事ができるのだろうか。
斜度のきつい沢を登っていく。
やがてパッと頭上が開けて前方をみると青空の下にそそり立つ崖が…。
崩壊地とはあれの事か。
果して越せるのか。
まあ越せなかったら戻ればいいだけの話だが…。
更に進むと6mばかりの黒い岩肌の滝が現れる。
巻く事もできそうだがホールドがしっかりしているので直登。
その上に出て目を見張った。
もしかしてとは思っていたがそこは両脇が切り立ったゴルジュ帯。
先ほどまでの沢からは想像もできないほどの劇的な表情の変化だ。
しかしこのゴルジュ帯はくるものを拒んでないようだ。
むしろ優しく迎えているような雰囲気がある。
その優しさに導かれるように奥へと進んでいく。
ふと振り返るとゴルジュの切り立った岩肌に黄色く輝くものが。
それは陽光に照らされたニッコウキスゲの群落だった。
まさかの出会いに言葉を失った。
極楽とはここのことか。
ゴルジュ帯には3〜6mほどの滝が数カ所ある。
何れもホールドがしっかりしていて直登できて楽しい。
目も身体も楽しませてくれるすばらしい沢だ。
最後に三段滝を越えると再び癒しの樹林帯に出る。
それは山の胎内に入った感じだった。
山に迎え入れられたのだと感じた。
沢筋を左に右に進んで山頂を目指す。
沢筋はどこまでも明瞭でそのまま山頂まで続いていそうだった。
しかし流石に上部では笹が覆い被さってきて行く手を阻む。
それを避け右手の尾根にあがって笹薮を進む。
露に身体を濡らしながら笹薮をこいでいくとやがて稜線に出た。
はじめ山頂のどちら側に出たのかわからず右手に進んだ。
しかし様子が変だと引き返すと登りついたところよりわずかに南へ進んだところに三角点があった。
三角点はヤブに覆われひっそりとしている。
奥美濃の三角点らしい佇まいだ。
周りの木々には幾つのパネルがぶら下がっている。
意外に尋ねる者が多い山頂ようだ。
こんなヤブ山によく来るものだ。
三角点脇に腰をおろしてまずは乾杯。
ドラマチックな変化を見せてくれたすばらしい沢を振り返りニヤける。
時間が経つと濡れた身体が冷えてきた。
沢では次第に晴れてきていたが山頂付近はガスっている。
更に樹木に遮られて直接はあたらないものの風もある。
これでは長い時間過ごす事はちょっと厳しい。
残念だが一時間そこそこで荷物をまとめ下山にかかる。
下山は稜線を北側に進み台地状のところから北側の沢へ下った。
このルートは稜線部のヤブコギが少し厄介だったが沢に下りるとヤブは消える。
滑りやすい斜面に何度か足を取られたがやがて沢は穏やかな姿になる。
振り返るとここも見事な樹林帯が広がっている。
どこまでも癒しの樹林に覆われた山域だ。
神又谷に出てからは釣り人達の踏み跡を利用して下っていった。
そのためが下山はかなり早い時間となった。
おかげでやり残していた家事を片付ける事ができた。