黒津谷出合にかかる堰堤。昨年より豪快な音を立てていた。
岩場につけられている作業道。場所によっては石組みもされていてる。
昨年と同じところで沢に下りた。水量は昨年よりやや多い。
左俣に入ってすぐにゴルジュがある。泳げない事もないが巻き道がある。
広々とした沢が思ったより長く続く。沢ぐるみが印象的。
滝もそこそこ現れるが大滝はない。淵が深いものが多い。
「通過困難」と資料で見た箇所は確かに越すのは難しい。左岸を巻いた。
二俣で休憩。濃い緑に包まれて癒される。
右俣を登っていくとそこは思ってもみなかったすばらしい渓相だった。
滝も幾つか現れて楽しませてくれる。
ふとみると二俣の間の尾根に鹿のような形をした栃ノ木がこちらを見下ろしていた。
急な沢を詰めて稜線に出ると杉の大木が出迎えた。
下りの尾根はブナが多く混じっていて疲れた身体を癒してくれる。
「憩の家」でもう一泊。
目覚めると天気は上々。
テンションがあがってくる。
今日は黒津谷に向かう予定。
昨年7月、山日和さん、とっちゃんと訪れた谷だ。
その時は右俣の戸倉谷を登った。
今回は左俣を辿る予定。
樽見から温見峠にぬける倉見の道はいまだ通行止め。
越波から黒津に入るとこの方面はゲートが閉まっている。
ゲート手前の道路脇に車を停めて出発。
しばらくとぼとぼと舗装路を歩く。
渡渉地点に到達してビックリ。
昨年は置いてなかった重機が幾つか置いてあり右手側の山腹に向かってモノレールが敷設してあった。
どうやら治山工事のためのものらしい。
工事車両を後にして流れに近づく。
と、見るからに去年より深くて流れが速い。
よく見ると下流側で流れが一部せき止められその上を工事車両が通れるようにしてある。
この所為で流れが深くなっているようだ。
それでもよく見ると渡れそうなところがあり流れに入っていく。
黒津谷出合の堰堤を右脇の巡視路を辿って越しすぐに右岸の作業道跡に入る。
この作業道跡はところどころ草に埋もれていたり崩れていたりするが注意深く進めば問題ない。
途中山腹の岩場を穿って道をつけたところがある。
これだけの道をつけるのにはかなりの労力を要した事だろう。
ならい谷の出合に下りて少し休憩。
昨年マムシを2匹見たところだ。
気をつけねば。
ここより奥、右岸に作業道があるようだが状態がわからない。
それよりも沢を歩いていった方が間違いが少ないだろう。
昨年よりも水量が多い沢を奥に進んでいく。
やがて戸倉谷と安立谷の出合に出る。
今日は左手の安立谷の方に進んでいく。
流れの太さからしてこちらの方が本流と呼べそうだ。
地形図にこちら側に「黒津谷」と表記されているのも頷ける。
しばらくは平水が続く。
右岸には桧林があるがまさか植林ではないだろう。
小さなゴルジェが現れる。
奥の淵は泳げば何とかなりそうだ。
しかし上を見るとフィックスロープがあって巻き道になっている。
わざわざ濡れる事もないだろうとそちらを利用する。
ゴルジュを越えた後は広々とした沢が続く。
左右の樹林がいい感じだ。
特に沢ぐるみが印象的だ。
沢泊するならもってこいのところだろう。
しかし先ほどからアブがうるさく落ち着いて楽しんでいられない。
足早に通り過ぎていく。
滝も2〜3mのものが数カ所あるが越すのに難しくはなかった。
一カ所だけ直登が無理で左から巻いた。
奥に進んでいくと次第に沢が狭くなってゴルジュの趣になる。
いつ大滝があらわれたり越せない淵が現れるかとドキドキ。
しかしそういったものは現れなかった。
昨年山日和さんにもらった資料に「通行困難」と書かれた場所があった。
そこがどんなところか気になってそれを確かめるのも今回の目的の一つ。
しかしそんなところはいつまでたっても現れない。
資料は20年前のものでもうその頃と姿が変わってしまったのかもしれない。
そう思いながら進んでいるとついにこせそうにないゴルジュが現れた。
淵は泳いで渡っていけそうだ。
しかしその向こうの1mほどの滝が登れそうにない。
更にその奥にも淵がある雰囲気。
なるほど「通行困難」とはこれか。
左右の山腹を見て左岸側を高巻きする事にした。
少し手前の小尾根に取り付く。
この小尾根はやせていてバランスよく進まないとちょっと怖い。
小尾根から淵を見下ろすとやはり越せそうな雰囲気はなかった。
小尾根を登りきって山腹を更に安全圏と思われるところまで登る。
それからルンゼの上部あたりをトラバース。
どれだけトラバースしなきゃいけないのかなあと下の様子を見る。
と、あれ?もう安全そうな沢になってるぞ。
で草付きを下に下りてみる。
もう難しそうなところはなかった。
「通行困難」はほんの一瞬で終わった。
20年前はもっと長い「通行困難」だったのかもしれないが今日は一瞬だった。
やや拍子抜けして奥に進むとすぐに二俣に出た。
地形図上で広々とした印象を受ける二俣だ。
しかし実際はそれほど広々した感じはない。
だが休憩にはもってこいの場所だ。
時刻は11時。
ここでランチタイムにする事にした。
二俣の監視役のように経つ栃の巨木が印象的だ。
そして見渡す限りの緑の競演。
夏の木漏れ日がミラーボールのようにあたりを照らす。
なんといやされる光景だろう。
ランチタイムを終え後は長めのデザートタイムだなと思いつつ右俣に入っていく。
しかし沢をわずかに登ってその考えが間違っている事を知った。
デザートタイムどころかここからが本当のメインディッシュだった。
今までのは長い前菜だったのだ。
変化のある沢沿いの山腹に次々現れる栃の巨木。
深い緑の中にかかる幾つかの滝。
V字になった沢の向こうには背の高い沢ぐるみ。
見上げれば樹間から青い空がのぞく。
「すばらしい」
思わず声に出ていた。
周りの樹林に見とれながら進んでいくと二俣の間に巨大な鹿の頭のようなものがこちらを見下ろしている。
なんだ、と見るとそれは栃の巨木の幹が変化したもののようだ。
正面から見ても横から見てもまるで鹿かトナカイといった感じに見える。
自然の造形の不思議だ。
ひょっとしたら鹿の化身なのかもしれない。
それが侵入者を見張っているのかも。
目を盗むように化身の脇を通って左俣に入っていく。
後は谷詰めだ。
谷は徐々に斜度を増していくが登るのにそれほど難しさはない。
ただ暑いのには閉口する。
稜線が近づいたところで靴をスパイク地下足袋に履き替える。
わずかで稜線。
しかし思っていたより左に出てしまった。
GPSは細かくチェックしていたが深い谷だけにロストしたり迷ったりしているようで当てにならない。
結局地形図とのにらめっこだったがそれも正確にはいかなかった。
本当は1022Pの南東鞍部に出るはずだったが更に南東のピークに出てしまった。
まあそれほど大きな違いはないが。
後は薄いヤブの稜線を昨年下った856.9三角点のある尾根に向かう。
この稜線はブナが混じった樹林が続きいい感じだ。
昨年は856.9三角点はパスしたが今回はGPSを利用して探した。
流石に稜線上では感度ばっちり。
ピンポイントで三角点を探し出せた。
この三角点ももうすぐヤブに埋もれてしまいそうだ。
点名「東倉見」というそうだ。
後は昨年と同様、巡視路となっている急な支尾根を黒津谷出合に向けて急降下。
下から重機や工事車両のエンジン音が聞こえてくる。
それは夢の世界から現実の世界へ戻るためのセレモニーのようだった。
〈追伸〉
人によっては身の毛がよだつかもしれないが
今回今年としては大量のヒルが靴やら衣服やらザックに張り付いていた。
イトミミズのようなものからちょっと太めのものまで。
はぎ取ってはじき飛ばした数は20匹は下らないだろう。
こう多いとライターで焼いたり虫除けスプレーをかけたりするなんていう悠長な事はやってられなくてとにかくはぎ取り捨てるしかない。
彼らはこちらが水の中を歩いている時はその冷たさに身を固めてじっとしているようだ。
で休憩したりして体温が上がってくると動き出す。
休憩中腰の辺りを何匹も這い上がってきていた。
しかし実害としては2カ所しかなかった。
足首と腰に一カ所ずつ。
どちらもかんだ瞬間がわかった。