ウソ越えから林道に入っていく。すぐに林道は抜けていた。
赤谷を下っていくと徐々に雰囲気が良くなっていく。
ミト谷の出合あたりは鬱蒼とした奥美濃らしい沢に見える。
ミト谷の両岸にはブナの巨木が林立する。
二俣のところにかかる小滝は上部をトラバースするように越していく。
左俣はしばらく小滝が連続。楽しく登っていく。
急斜面から振り返るとこんなところを登ってきたのかと唖然。
笹ケ峰はその名の通り山頂一面が笹原だった。
激薮の県境稜線を歩いてく。前が見えない。
ミト谷本流は滝が続く。下る程規模が大きくなって焦った。
20mほどの垂瀑をこえると後はザイル無しで下れる滝ばかり。
赤谷に出る頃にはそろそろ暗くなりかけていた。
そばつるが土曜日休みになるというので早速沢に誘った。行き先はまだ行った事のない笹ケ峰。資料によると結構長丁場になりそうだ。
天候については全く心配してなかった。予報もこの日を含めて前後日の天気も快晴。きっと気持ちのよい沢歩きになるだろう。
早朝、福井国境近くのウソ越えに着いて準備を整え出発。空を見るとどんよりしていたがそれでも時間が経てば晴れて来るのだろう。
ウソ越えには5月にこのあたりで行方不明になった方の情報提供を促す立て札がまだ立っていた。赤谷を歩いた時に見つけたザックの持ち主だ。あれからまだ見つかってないのだ。
この6月に赤谷を歩いた時に最後に登ってきた林道を今日は赤谷に向けて下っていく。思っていたより短かった。赤谷に下りたところからも沢を行かず時間稼ぎの為に更に続く林道跡を辿っていく。
林道跡は草に埋もれて荒れている。その中におそらく釣り人のものだろう踏み跡が一筋続いている。少し歩くと朝露で全身が濡れた。
しばらく歩くとミノグサ谷の出合に出る。下山時に使おうと思っている谷だが果してここにおりてこれるかどうか。ここから赤谷の流れに下りてミト谷出合まで下っていく。
赤谷上部にあたるこの辺りは登ってくる時はだんだん風情がなくなっていく感じだったが逆に下っていくとだんだんそれらしくなってきていい感じになっていく。普通の谷とは逆だ。
幾つかの感じのいい淵や岩を越えて見覚えのあるミト谷出合に出る。ミト谷は出合から見る限り周りを樹林に覆われて鬱蒼とした奥美濃らしい沢に見える。実際に入ってみるとすぐに頭上が開けて広々として明るい。
しばらく登っていくと両岸にブナが林立していた。どれも巨木でほれぼれと見とれてしまう。赤谷ではこれほどのものはなかったような気がする。すばらしい。
沢が狭くなってくると小滝がかかる二俣に出る。本流は右俣だがここは左俣へ進んでいく。しばらくは狭い沢で幾つか小滝が現れるが楽しく越えられる。やがて上空が開けて明るいV字谷となる。しかし、上空は相変わらずどんよりしており時折雨粒さえ落ちてくる。
今日は全国的にいい天気ではなかったのか。時間が経てば晴れて来るはずではなかったのか。それなのにこの天候はどうした事だろう。そこで思い出した。今日は気象庁でさえ恐れおののく龍神様と一緒に来ているのだった。納得した。この龍神様が雲を連れてきているのだ。
この龍神様は今や家族にさえ恐れられていて彼が休みをとると必ず雨が降ると言われているのだ。親父さんにさえ心配されている始末だと言う。晴れ男と思っている僕にしても彼と山行に行く時には大抵雨が絡んでくる。こんな彼が一緒なのだ。この天気も納得。しかし、日差しがないから歩いてる分には暑くなくていいという利点もあるのでそのあたりは龍神様に感謝だ。
V字谷は登るに従って斜度を増していく。龍神様は、違った、そばつるは徐々に遅れがちになってくる。バテてきたのだろう。その所為で神通力も弱ってきたのか少し青空ものぞくようになってきた。
やがて両側から草薮が覆うようになりトンネルの中を歩いてるような雰囲気になる。更に進むと3mほどのチョックストーンの涸れ滝が現れた。ここを何とか越すとその上にも同じくらいの高さの涸れ滝。これも越すとその上にあった流木に数本のスリングがかけられていた。下山時にザイルを使った跡だろう。
斜度はどんどん増し沢筋が消えるといよいよ草木を掴まないと身体が持ち上がらないような斜面になる。そこから振り返るとこんな急なところを登ってきたんだとビックリ。傍らを見ると竜胆のつぼみが柔らかな紫を見せていた。
岩場を越えて斜度が徐々に緩くなってくると笹薮に突入。わずかで稜線に出る。目指す山頂はここから南へ灌木と笹の薮を漕ぐこと十数分。着いた笹ケ峰山頂はその名の通り一面笹の原だった。到着は予定よりかなり早かった。
三角点はわずかに2畳ばかりが切り開かれているのみ。そこに荷物を降ろしてまずは乾杯。そばつるは「よく登ってきたものだ」と感慨深げだった。
山の話やら何やら話しながら楽しいひと時を過ごすと時計はもう12時を過ぎている。ロングコースだけにあまり長居はできない。荷物をまとめて下山にかかる。
下山は県境沿いに北にある1169Pを越えてミノグサ谷へ下りる予定だが稜線の薮の状態によってはその手前の鞍部からミト谷へ下降する事も視野に入れておこう。ミト谷本流上部は情報が何もないが地形図で見る限り下降は困難でなさそうだ。
稜線の薮はやはり半端ではなかった。踏み跡といったものはほとんどなく(わずかにそれらしいところもあったが)地形図と風景を頼りに進まなければならない。しかし薮と時折出るガスでその風景さえ見えない。悔しいがGPSに頼った。
県境尾根は微妙にカーブしていて向かっている方向があっているのかどうかわかりづらかった。そこでもGPSのお世話になった。そばつるは厄介な薮に遅れがちで、時折声を出しては位置の確認をした。
薮を跨いだり踏んだりかき分けたりして進んでいくと意外と早く最低鞍部に辿り着いた。これは1169Pを越えてミノグサ谷を行くのもそう難しくないかも。しかし後から追いついてきたそばつるの様子を見て薮の登りを行くのはきついと判断。ミト谷へ下っていく事にした。
薮の急斜面を下りて沢筋に出る。沢筋は穏やかな感じでこの分だとかなり早く下りられるなあと思っていた。その内、小滝が現れ安全の為にザイルを出した。そこを下るとすぐに次の滝が現れまたザイルを出す。ザイルをしまうとまた次が現れた。どうやら連瀑帯のようだ。そして困った事に下るに従って滝の規模が大きくなっていく。
やがて僕の30mでは到底足りない3段滝が現れた。とりあえず2段下まで懸垂しておりて最後はなんとか左岸側を巻いた。これでもう大滝は終わりだろうと思っていると先に進んでいたそばつるが下を見て立ち尽くしていた。そこにいくとそれは今までの滝とは比較にならない大滝だった。
恐らく20mはくだらない垂瀑だ。垂瀑だから当然下の様子はわからない。懸垂下降はちょっと躊躇われた。では高巻こうという事になるのだが滝の両側は絶壁だ。しかし、下流を見ると左岸側のブナの立つ斜面が緩やかに見える。そこまで下りれば何とかなりそうだ。左岸側の様子を探るとなんとか辿れそうな雰囲気。で落ち口から少し戻ったところから左岸側に取り付き急斜面をしばらく登った後トラバース。そしてブナの立つ斜面に向かって下っていった。これは思ったより早く巻く事ができた。迎えてくれたブナはかなりの巨木だった。
その後はだんだん滝の規模も小さくなりザイルを出す事もなくなった。やがて二俣に出た。時計を見るとすでに4時だった。これは急がないと闇下になりそうだ。
二俣で休憩を少しとった後はノンストップでミノグサ谷出合を目指した。そこまで行けば後は林道跡を辿るだけなので少々暗くても大丈夫だろう。急ぎ足で赤谷を登っていくと途中で泊まりでタンド谷に釣りに行ってきたという方に追いついた。一人で沢泊なんてすごいなとそばつると感心していた。
ミノグサ谷出合についた頃にはかなり暗くなっていた。それでもしばらくはヘッデンなしで林道跡を歩く事ができた。しかしやがて闇が濃くなり流石にヘッデンを灯して草薮に覆われた林道跡を歩いた。振り返れば谷間に浮かぶ半月が美しかった。いつの間にやら空は晴れていたのだ。